こんにちは、nekoruriです。SecHack365でトレーナーをやっています。
この記事は、SecHack365の存在は知ったけど応募するかどうか迷っている人に向けて、公式サイトだけだと分かりづらいポイントなどを、いちトレーナーの立場から、書いていこうと思います。とくに「自分には早い気がする」「セキュリティの専門家じゃないし……」「1年って長すぎる」と、応募するか悩んでいる人にこそ読んでほしいです。

そもそもSecHack365 is なに?
ざっくり言うと、25歳以下が対象の、1年間(正確には6月〜翌3月)の長期プログラムです。NICT(情報通信研究機構)という国の研究機関が主催していて、参加費は無料。学生と無収入の方は、集合イベントの旅費・宿泊費も全額補助されます。社会人の方でも(旅費・宿泊費の補助はないですが)参加可能です。パンフレットにも書かれているとおり、実際に小学生から新卒数年目のエンジニアまで参加者がいます。
“SECURITY + HACKATHON 365 DAYS”と「ハッカソン」が名前についていますが、週末二日間とかで勢いで何か作るやつとはだいぶ違い、1年間かけて、サイバーセキュリティに関わる研究・開発・制作に取り組む長期ハッカソンです。年6回ある全体イベントが「みせる場」のマイルストーンになっていて、その間はトレーナー(メンター)と密に相談しながら開発・研究を進めます。
今年度は6つコースがあって、それぞれ違うアプローチで一年間を過ごします。
「セキュリティ」なんだよね?
応募を検討する人がまず引っかかるのが、たぶんこの「セキュリティ」という看板。でも実際の修了生作品を眺めてみると、話の幅は思っているよりずっと広いです。
セキュリティ技術とひとことに言っても、よくある質問にあるとおり、様々な関わり方があります。
セキュリティに少しでも興味があれば、どなたでも応募は可能です。ソフトウェア研究・開発に興味があったり、さまざまなアイディアを考えるのが得意であればぜひ応募してください。 高度な知識は必須ではありませんが、セキュリティに関する基礎的な知識(サイバー攻撃の種類や仕組み、基本的な防御手法など)があることが望ましいです。 具体的には、以下のような方が本プログラムの対象者です。
- セキュリティ技術に関わる研究者を目指す方(研究者志望)
- セキュアな研究・開発能力を身につけたい方(開発者志望)
- セキュリティ関連システムの研究・開発能力を身につけたい方(開発者(セキュリティ分野)志望)
- セキュリティ技術にもとづく起業を目指す方(起業家志望)
セキュリティ的な「なにか」を自分のテーマと接続できれば、ぜひ応募歓迎です。AIセキュリティ、プライバシー保護、安全な開発体験、誤った操作を防ぐUI、堅牢なプロトコルの設計……どれも立派な「セキュリティ」です。実際、修了生のブログでも「セキュリティに関係するテーマなら幅広く受け入れられる、安心してほしい」と書いている人がいます。
その一方で、SecHack365はセキュリティを体系的に教わるプログラムではありません。もちろん、講義や助言、トレーナーとの相談、法律や倫理に関する学び、研究・開発に役立つインプットはあります。ですが、中心にあるのは、自分のテーマに必要な知識を自ら付けていく、という前のめりさです。
求められる技術力
もう一つの引っかかりが、技術力。「SNSに流れてきた修了生のすごい作品を見て、自分のレベルじゃ無理だと思った」という声は少なくありません。 これは、はっきり言って逆で、修了後に輝いている姿と、入口の自分を比べるのは不公平な比較です。
たしかに応募時点でもいろいろな分野を得意としている受講者がいます。そして、うっかり脳内でそれら全部を合体させた「架空の最強トレーニー」と自分を比較してしまいます。そんな人は居ません。あなたが知らないことを知っている人がいるように、あなたが持っている視点を持っていない人もいます。あなたが得意なことが、他の人には新鮮に見えることもあります。自分と違う強みを持つ人たちと一緒に1年間走れることが、SecHack365の価値です。
実際の修了生ブログを読んでみると、こんな出発点の人がいます。
- プロダクトデザイン学科卒、プログラミング未経験で表現駆動コースに参加した方(t3nさんの体験記)
- 「低レイヤーなどなんぞいレベル,セキュリティとは全然違う分野に興味がある」(hamo203さんの体験記)
- 「技術力が低くてもアイデアと熱意が伝われば何とかなる部分はある」(Suisan-nekiさんの修了記)
応募の段階で必要なのは、「自分で調べて、試して、説明しようとする姿勢」です。コースによりますが、表現駆動コースなどまだ取り組みたいテーマが決まっていなくても歓迎しているコースもありますし、開発駆動コースや世界観駆動コースのように明確に応募時にテーマがイメージできていることを前提としているコースもあります。
技術力なんてのは1年かければぶっちゃけなんとでもなります、でも、伸ばすのはあなた自身です!
動くものを作りきろう
SecHack365で一番大事なのは、「とにかく動くもの*1を見せよう」という点です。
自分なんかも学生時代を思い返してみると、「動くプロダクトを最後まで作りきった」経験を持っている人は意外と少ないです。 「動かす」ところまではやっても、「他の人に使ってもらえる状態にして、フィードバックをもらって、改善する」というサイクル全体を回した経験がないまま卒業する、というのはわりとよくある話ではないでしょうか。
SecHack365の1年間は、これを獲得しに行く場所として優秀です。
- 年6回のイベントとして発表してフィードバックをもらうことが組み込まれているので、「作って終わり」にならない
- 使ってもらうことを意識して磨く過程を、トレーナーや他の受講生と並走しながら経験できる
- 習慣化して取り組みつづけるための講義を通じて、継続するためのやり方を学べる
- 外部の研究者などに作品を見せて相談できる機会がある
「1年間で大きなものを作る」と聞くと、最初から壮大な設計図が必要に見えるかもしれません。でも実際には、1年間を支えるのは、日々の小さな進捗です。大きな成果を突然出すより、小さなアウトプットを積み重ねることが重要です。
そして修了後にも発展している作品もたくさんあります。OSSとして継続開発される、登壇のネタになる、学会発表につながる、起業や事業化のタネになる、就職時のポートフォリオになる、これは「動くところまで作りきった」からこそできることです。
そして2026年度は、コーディングAIが当たり前になった世界での最初の1年目です。AIでコードはどんどん書けるようになっていきますが、AIが書いてくれるのはあくまでコードであって、「世の中で動いて、使われて、価値を出すプロダクト」を作るのは依然として人間の意志であり仕事です。コードを書く部分がAIに任せられるようになるからこそ、「動くものを作りきって世に出す」プロセス全体を経験できることの価値は、これから上がっていくと思っています。
「自分はちゃんとしたプロダクトを作り上げたことがない」と引け目を感じている人こそ、SecHack365でそれを経験しにきてほしいです。
1年という長さで得られるもの
SecHack365の最大の特徴はやはり「1年という長さ」です。色々な機会を提供します。
- 同じテーマを何度も発表して、何度もフィードバックをもらえる
- 失敗してもやり直せる(途中でテーマを変える人も普通にいます)
- 「とりあえず作ってみる → 見せる → 考え直す」を何周もできる
- 同期トレーニーやトレーナーとの関係が深く、長く続く
ただし、1年は長いです。学校、仕事、研究、就活、体調、ほかの予定と並行しながら続けることになります。毎週すごい進捗を出す必要はありませんが、イベントや提出物に向けて、自分のテーマを継続して進める時間は必要です。SecHack365は楽しい場所ですが、楽な場所ではありません。
その一方で、その1年を共に乗り越えた修了生のコミュニティは、修了後も活きています。修了生有志によるCTF大会や、毎年のアドベントカレンダー、技術書典での同人誌頒布など、受講者としての一年間が終わってからの活動もたくさんありますし、アシスタントとしてSecHack365そのものに直接関わりつづけることもできます。修了後のキャリアの広がりも幅広いです。
修了生ブログを読もう
ここまでいくつか修了生のブログを紹介してきましたが、実際のところを知りたいなら修了生のブログを読むのが圧倒的に早いです。応募者目線で書かれた一次情報がたくさんあります。特に「どのコースが自分に向いているか」というコース選びには、修了生の体験がいちばん参考になるはずです。
はてなブックマークの「sechack365」タグ検索から、各年度・各コースの体験記がまとめてたどれます。特に応募で迷っている人は、自分と似た境遇の修了生のブログを探してみてください。
おわりに
SecHack365は「すごい人が集まる場所」と言われがちで、応募をためらう人もよくいます。でも、本当に必要なのは「モノづくりでなにかを解決してみたい」という気持ちと、「1年やり切るぞ」という意気込みです。それさえあれば、入口の技術レベルは思っているほど高くないです。
SecHack365はすべての人に合うわけではありません。セキュリティを体系的に教わりたいだけの人、テーマを完全に与えてもらいたい人、1年間の時間をどうしても確保できない人、未完成のものを人に見せたくない人には、少ししんどいかもしれません。ただし、「技術力に不安がある」だけなら、それは応募をやめる理由にしなくてよいと思います。むしろ、その不安を持ったまま飛び込んで、1年間で自分のテーマと技術力を育てる場です。
少しでも気になっているなら、申込フォームから課題をダウンロードして見てみてください。応募課題を書く過程そのものが、自分の「やりたいこと」を整理する貴重な時間になります。
2026年度の応募締切は、この記事公開から一週間後の「2026年5月12日(火) 12:00」です。
これからこの一週間が、皆さんにとって良い成長の機会になることを楽しみにしています!
そうそう、私が担当する「世界観駆動コース」もよろしくです!
*1:ソフトウェアに限らず、研究論文、小説、動画、アートまで歓迎です